デジタルプロセッサー(D/Aコンバーター部)SH-X1000は,SL-Z1000と同じく重量20kgの堂々たる筐体を持ち
筐体の構造等は共通しており,こちらもしっかりした振動対策が図られていました。
電源部は,デジタル用,アナログ用それぞれ専用の大型トランスと7個のフィルターコンデンサーを搭載した強力なも
ので,回路動作による電源電圧変動を抑えるために「アクティブシャント電源」を採用していました。
パーツの面でも,最上級機らしく,ガラスエポキシ基板,オーディオ用PXSコンデンサー,など厳選された搭載されて
いました。
最大の特徴としては,DACとしてMASHを搭載していたことでした。MASHは,NTTと松下電器が共同開発したもの
で,ビットストリーム方式とともに,1ビットD/Aコンバーターの代表的な方式の1つで,現在でも広く使われている方式
です。MASHは(Multi Stage Noise Shaping)の略で,独自の多段ノイズシェーピング回路を指すことばです。
MASH方式の1ビットD/Aコンバーターでは,デジタルフィルターが16ビットデジタルデータをオーバーサンプリングし,
折り返し成分を可聴域外の高域周波数帯に追いやり,MASHにより多段のノイズシェーピング(超高域に量子化ノイズ
を集中させる)が行われ,可聴帯域内の優れたSN比と精度を実現したものでした。MASHは多段のノイズシェーピング
を安定してかけることを可能にした技術でした。MASH内では,その後1ビットD/AコンバーターによりPWM(Pulse
Width Modulation)変換が行われ,多段のフィードバックやフィードフォワードが行われた後ローパスフィルターを通す
だけでアナログ信号に変換できるというもので,微少信号に対して強さを持つというものでした。従来のマルチビットに対
して,時間軸の正確さにより精度を出すという,当時全く新しい発想のD/Aコンバーターといわれていました。
SH-X1000に搭載されたMASHは第3世代にあたり,当時最高級のもので,MASHチップには24ビット8倍オーバー
サンプリングのデジタルフィルターが内蔵され,MASH・1ビットDACとL/R独立のPWMチップという3チップ構成として,
PWMチップへのデジタルノイズの飛び込みを防止し,チャンネルセパレーションの向上が図られ,理論Dレンジ123dB
を実現していました。
SH-X1000では,デジタルオーディオインタフェースの伝送系で発生する音を濁らせるクロックジッターを防ぐために,
「ジッターフリーインタフェィス」が搭載されていました。これは,デジタルデータを高性能DSP(Digital Signal Proc
-essor)を介して1.5Mビットの大容量RAMに蓄積し,送り出し側のクロックから独立してクォーツによる高精度クロ
ックでRAMから読み出し,終段のデジタルフィルター+MASHチップにデジタルデータを転送することで,ジッターを
RAMに蓄積するため,読み出し時にはジッターが原理的にゼロになるというものでした。RAM使用量が大きいとき,
やや時間的ズレの発生が起こりますが,RAM使用量にNARROW/WIDEの2種を設け,ソースの周波数偏差の大
小で選択できるようになっていました。
また,入力ソースの周波数偏差が極端に悪い場合には,「上記のジッタフリーモード」ではなく独自の「デジタルPLL
モード」で動作するようになっていました。このモードでは,DSPに入力されたデジタル信号のVCO(Voltage Contro
-lled Oscillator=電圧制御発振器)からのクロックとの位相差をRAMを用いて検出し,約10secの周期の位相差出
力でVCOをコントロールするようになっていました。この結果,このモードでも,ジッターが可聴帯域外へ追いやられ,
ロックレンジを広げ,発振精度の高いクロックの生成が可能となっていました。
SH-X1000では,さらに,ローパスフィルターの位相まわりから生じる群遅延歪みを抑えるためにDSPを活用し,後
段のローパスフィルターの逆特性をもつ位相補正を行い,全体のリニアフェイズを実現していました。
また,従来アナログ回路で行われていたディエンファシス処理をDSPで処理するデジタルディエンファシスが採用され
回路のシンプル化が図られていました。
以上のように,SL-Z1000とSH-X1000のペアはテクニクス初のセパレート型CDプレーヤーであるとともに,プレス
テージモデルとして,80万円でも安いと思わせるほどしっかりした作りで,きめが細かく力強い音を実現した力作でし
た。
SH-X1000の主な定格
チャンネル数 2チャンネル(ステレオ)
出力電圧 アンバランス:2.5Vrms(EIAJ)
バランス:2.5Vrms
周波数特性 2~20,000Hz±0.2dB
ダイナミックレンジ 98dB以上(EIAJ)
S/N比
全高調波歪率 0.0018%以下(EIAJ)
高調波歪率 0.0008%以下(EIAJ)
チャンネルセパレーション 110dB以上(EIAJ)
デジタルフィルタ 24ビット高分解能出力8倍オーバーサンプリング
D/Aコンバータ 64fsツインPWM方式8DACシステム
出力インピーダンス アンバランス:600Ω
バランス:600Ω
デジタル入力 EIAJ標準デジタルオーディオインターフェイスフォーマット
光3系統
サンプリング周波数:32.0kHz±0.1%,44.1kHz±0.1%,48kHz±0.1%
デジタル出力 EIAJ標準デジタルオーディオインターフェイスフォーマット
光1系統
オーディオ出力 アンバランス出力1系統,バランス出力1系統
電源・消費電力 AC100V 50/60Hz・20W
外形寸法 484W×139H×419Dmm
重量 20kg
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